#5 オーディオ編集と出力

 クリップのカット編集やエフェクト追加といった映像の編集が終わったら、完成としてしまって最終出力に移ってもよいわけだが、その前にひと手間かけよう。ということで、今回はオーディオの編集と、最終出力について紹介する。

 オーディオ編集については連載第2回において、トラックヘッダに用意されたボリュームとパンでトラック間のバランスがとれること、クリップのエンベロープを使ってボリュームとパンの時間的変化がつけられることを紹介した。これだけでも十分なトリートメントと言えるが、この段階で映像に付けられている音は撮影時に収録されたものだけである。これだけではちょっとさびしい。映像の内容にもよるが、オーディオ素材をさらに加えればより作品としての魅力も高まるはずだ。

■ナレーションの録音

 前回はテキストを使って状況説明の例を示したが、これをナレーションで置き換えるという方法も考えられる。

 映像だけでは伝わりにくい事柄を文字だけで説明するのは難しい。文字量が増えればそれを追うだけでも視聴者はつかれてしまう。また、注意力が文字にのみ向けられてしまい、せっかくの映像がまったく記憶に残らなかったという状況は避けたい。文字情報は最小限にとどめて、ナレーションを併用するのも1つの解である。

 Movie Studioでのナレーション録音はいたって簡単だ。オーディオトラックに用意された録音ボタン(トラックヘッダの丸いボタン)を押すだけで一発である。と、言葉でいうと簡単だが、初めての場合はとまどうこともあるだろう。

 PCのサウンド機能で録音に利用できるソースはたいてい複数用意されている。マイク入力とライン入力のどちらが有効になっているかをWindowsのボリュームコントロールなどでチェックしておこう。また、入力レベルが大きすぎる場合はレベルオーバーでバリバリといったノイズが発生してしまう。インジケータを見ながら何度か試すことになるだろう。

 さて、操作の続きだが、録音したい位置にカーソルを合わせ、空きトラックのトラックヘッダの録音ボタンを押すとプレビューに再生映像が流れるので、これに合わせてナレーションを収録すればよい。画面にリアルタイムで波形が表示されていくのが安心感を与えてくれる。

 ナレーションが録り終わったら、再度録音ボタンで停止となる。ここで、録音ファイルを残すかどうかをするかをたずねるダイアログが現れる。明らかに失敗したと思ったら、迷わず削除。残す場合は、あとでわかりやすいようにファイル名を変更しておこう。ここで完了を押すと、今録音したオーディオファイルがクリップとしてタイムラインに配置されるのが確認できるはずだ。確かに操作自体は簡単である。

 ただ、この録音したクリップの配置、微妙にずれてしまう。それでも調整はクリップをちょっと前に動かすだけでよいので、たいした手間にはならないだろう。なお、PCの処理能力によっては、前後のタイミング調整だけでは効かない場合も考えられるので、一回の録音は短い時間に抑え、複数繰り返すのが安心かもしれない。

■CDの曲をBGMに

 ナレーション以上に重要な音素材となるのがBGMである。BGMを加えるだけで映像の印象はかなり変わる。作品のグレードを簡単に1段も2段もアップしてくれるBGM、使わない手はない。

 Movie Studioのオーディオトラックは3つ。ボイスはビデオクリップに収録された音声になるのが通常なので、ミュージック、サウンドエフェクトの2トラックは残っているはず。これらに区別はなくまったく同様に使えるので、ナレーションを録音しても、さらに1トラックは余る寸法。BGMの利用に問題はない。

 BGMは既存の音楽ファイル、MP3やWAVファイルが使える。またWindows Media PlayerでCDから取り込んだオーディオファイル(WMA)も問題なく利用可能だ。また、Movie Studio自身にも音楽CDからのオーディオ抽出機能があるので、ほかのソフトを立ち上げるのが面倒ならこれを使ってもよいだろう。CDからの取り込みでは、ナレーションの録音と異なりタイムラインへの配置は行なわれず、メディアプールに登録されるだけ。配置はユーザーが行なうことになる。
 なお、最近のCDはとてもレベルが高く収録されている。ほかのトラックの音声と同時に再生すると簡単に全体のレベルがオーバーしてしまうはずだ(オーディオミキサーで確認できる)。ここはトラックのボリュームを下げることで対処しよう。また、映像の内容やほかのオーディオに合わせて、フェードやエンベロープで音量変化を設定するのも効果的なのはいうまでもない。

■オーディオトラック用エフェクト

 Movie Studioにはオーディオ用のエフェクト(オーディオトラックFX)も用意されている。オーディオトラックにさらに磨きをかけるにはうれしい機能だ。と言いたいところだが、実際はあまり使いみちがないというのが正直な感想である。

 オーディオトラックFXは8種類。これらもレンダリング不要で簡単に効果が確認できる。複数のエフェクトを同時に使えるという仕様は、ビデオFX同様でなかなか気が利いている。

 しかし、問題はこのエフェクトがトラック単位でしかかけられないこと。オーディオトラックに配置されたクリップのうち1つだけにかけたい、といったことは望めないのである。ビデオFXはクリップ単位なのになあ。という愚痴も出ようというものだ。ボリュームやパンのようにエンベロープが設定できれば使いようもあるのだが、それもできないときている。

 ここぞという場面で音声にリバーブ(カラオケでいう「エコー」のような残響を加えるエフェクト)をかけて注目をひくという手法があるが、これをやるためにはその部分専用に1トラックを占有するしかないのである。これはあまり現実的ではない。もちろん、メインとなる音声を2トラックに抑えることに問題がなければ、活用のし甲斐はある。

 実際の利用場面では、ビデオ収録した音声や、ナレーション素材にイコライザーで補正をかける、といった程度ではないかと思う。イコライザーは調整できるポイントが3バンドといささか心もとないが、空調や風切り音といったノイズを低減させることは可能だ。

■ループ素材を使う

 連載第2回ではビデオクリップと同様に、オーディオクリップもタイムストレッチが可能だと説明した。Sony Pictures Digital NetworksのACIDシリーズ用に作成されたACID Loopsというオーディオ素材の利用に関しては軽く触れた程度だったので、ここで改めてやり方を紹介しておこう。

 ACID Loopsとは、1小節や2小節といった短いオーディオクリップであり、ファイル形式としてはWAVファイルそのものである。これに長さやテンポ、キーといった情報が付加されているのだが、Movie Studioではこれらの情報は無視してしまう。それでもタイムラインに配置してしまえば、右端をドラッグするだけで繰り返し(ループ)再生ができるので、好きな長さだけループさせればいい。もちろん1クリップのループだけではさびしいので、複数のAcid Loopsを同期させて使うのがベターだ。

 Acid Loopsをタイムラインに配置した時点では長さも違うし、テンポも異なる。これを合わせる方法はタイム選択バーの使い方がポイントとなる。

 まずは2つのクリップを異なるオーディオトラックに上下に並べる。ここでは便宜上、上をクリップA、下をクリップBとしよう。クリップAをダブルクリックすれば、タイム選択バーがその長さにフィットする。ここで設定されたタイムバーの範囲にクリップ移動がスナップするようになるので、クリップBの頭を左端に合わせる。次にクリップBの右端でCtrlキーを押しながらドラッグして、タイムバーの右端に合わせる。これでクリップA、Bが同じテンポになるはずだ。あとはそれぞれのクリップの右端をドラッグして好きな回数だけ繰り返せばいい。また、グループ化を行なえば、クリップA、Bが同時に動くようになるので、位置の調整やさらなるタイムストレッチも同時に行なえる。ループ回数もドラッグだけで両方について設定が可能。片方だけを伸ばしたい場合はいったんグループ化を解除すればよい。

 さて、上記の方法はどちらのクリップも同じ小節数の場合。クリップAが1小節、クリップBが2小節の場合は、クリップAを2回繰り返した状態で、タイムバーの範囲を設定し、これにクリップBをタイムストレッチしてを合わせればよい。

 Movie Studioではキーの変更方法が用意されていないので、異なるキーの素材を同期させても、聞ける音楽にはなりえない。よって、この方法は音程のないリズム+1つのメロディ楽器とか、リズム同士といった組み合わせにしか使えないのである。それでも映像のBGMと考えればさほど貧弱さは感じない。逆に主張がないBGMの方がよいという人もいるだろう。リズムとベースだけ、リズムとギターだけといった組み合わせでも、どちらか一方を随時ミュートしたり、エンベロープでボリュームを調整するだけで、けっこう変化が付けられる。また、2つのメロディ楽器を1トラックで交互に繰り返すといった方法ならキー変更ができないことも問題ないだろう。無料のACID Loopsはhttp://www.acidplanet.com/tools/8packs/などでダウンロードできるので、ACIDは買えないというユーザーも一度試してみてほしい。

■最後は出力

 映像、音声の編集作業が終わったらいよいよ出力である。ここまでくると難しいことは何もない。メニューバーの「ムービーの作成」でウィザードが表示されるので、これに従えばよい。

 「ハードディスクドライブに保存する」ではAVIのほか、WMV、Real、QuickTimeなどが選択できる。次の「DVDに焼き付ける」AVIファイル作成後、Sonic My DVD 5を起動する。

 「カムコーダーのデジタルビデオテープに保存する」はビデオカメラへの書き戻しである。ファイル作成後、カメラへの出力が始まる。タイムラインのプロジェクトだけでなく、レンダリング済みの既存ファイルの書き戻しもこれで行なえる。

 「ビデオCDまたはCD-ROM」はMPEG1ファイル作成後、CDライティング機能までMovie Studioが行なう。あとの3つはいずれもWMVファイルが作成される。電子メールはファイル作成後メールクライアントを起動、HTMLはムービーを埋め込んだHTMLファイルが作成される。HTMLタグの知識がなくても、Webへの公開ができるという配慮はうれしい。

 DVDを作りたいというユーザーが気になるのはMPEG2での出力だろう。コーデックはMain Cencept製で、画質や速度は満足いくものだが、ビットレートなどの設定ができないのが残念だ(最大8MbpsのVBRで作成される)。バンドルされるMy DVDにしても詳細な設定は望めない。

 とはいえ、1時間程度収録のDVDを簡単に作成するというのならこの仕様で問題はない。My DVDは編集機能がない、音声はPCMのみ、などの機能制限があるが、編集機能の有無についてはMovie Studioとの組み合わせなら気にならないはずだ。

 これまで編集の簡単さとレスポンスのよさを中心に機能を紹介してきたが、各種フォーマットをサポートし、DVDまで作成できるオールインワンパッケージとしての魅力も十分である。本連載はこれで終了になるが、今後はユーザーの口コミによってこのソフトの楽しさがさらに広められていくことを期待しよう。