#2 タイムラインの基本操作

 前回に引き続き、タイムラインでの基本操作を見ていこう。

 Movie Studioでは、タイムラインでの操作はほとんどがマウス+キーボードショートカットで行える。
 メニューを使うことはほとんどないといってよい。

 前回紹介した不透明度やフェードイン/フェードアウトの設定、タイムストレッチ(スローモーション/クイックモーション)の機能を試してみれば、それがわかるはずだ。

 タイムライン操作にはMovie Studioならではのものがほかにもいくつかある。
 まず、最初に紹介するのが、これらと同様の操作方法で行える「イベントの内容のシフト」だ。

 イベントの内容のシフトは、タイムライン上に配置したクリップのイン点とアウト点を同時に同じ時間だけ変更するもの。
 タイムラインにおけるクリップの長さおよび配置はそのままで、クリップ内の再生される部分が変わるという機能であり、これは、Premiereでいうスリップに当たる。
 その操作はAlt+マウスのドラッグだ。マウスを左にドラッグすれば、イン点・アウト点が後ろに移動、右にドラッグすれば前に移動という具合である。

 ちなみに、一度試してみればわかるように、いったんクリップのトリミングを行ったあとでなければ、この機能は意味をなさない。
 イン点とアウト点を同時に変えるには、ソースとなるクリップよりも短くなっていなければならないからだ。

 キーボード併用という点にめんどうくささを感じる人もいるかもしれない。
 しかし、その印象は間違いである。

 ほかのビデオ編集ソフトでは、ボタンによりツールを切り替える操作が必要となるなる。
 しかし、Movie Studioならその手間はない。どのキーを使うのかを覚えなければ使えないというのがネックだが、たくさんのアイコンが並んでどれを押せばどういう動作になるかを覚えるのとたいした変わらない気もする。

 とりあえず、Ctrl+マウスドラッグはタイムストレッチ、Alt+マウスドラッグはイベントの内容のシフト、と覚えておこう。

 さて、低価格ビデオ編集ソフトを使っていると、こうしたトリミング用の各種ツールの存在の意義がわからないことも多いかもしれない。
 Premiereユーザーでさえもスリップ(イベントの内容のシフト)は使ったことがないという人もいるくらいである。これはいささかもったいない。

 そこで、ここではイベントの内容のシフトを有効に使えるようなもう1つのMovie Studioの特徴を紹介しよう。

■少ないトラックを有効に使う方法

 Movie Studioでは、1つのトラックに配したクリップはそのままに、もう1つのクリップを同じトラック内の配置済みクリップの上に配置することができる。

 言葉ではわかりにくいので、画面A、Bを参照してもらおう。
 このクリップの配置はいずれも同じ結果を再生することになる。

 画面Aでは先に1つのクリップを配置し、その上にもう1つのクリップを乗せたものだ。
 この操作で、2つのクリップ間のカットイン、カットアウトが実現できる。

 再生時に表示されるのは、あとでトラックに乗せたクリップとなる。
 クリップを分割したり、再配置しなくとも、上に重ねれば、あとで重ねたほうが優先される(前面に表示される)。

 他のビデオ編集ソフトならこうしたことはできないが、この手法は音楽制作ソフト(DAWソフト)では多く採用されている方法である(あとで重ねた音声クリップが再生時に優先される)。
 前回、音楽制作ソフトとの類似性をいくつか紹介したが、ここでもそうした特長が見られるわけである。

 マニュアルではこの配置をパンチと呼んでいる。この呼称も音楽制作ソフトライクなものだ。

 ここで、さらに上に重ねたクリップにフェードを設定することも可能だ。
 操作は前回紹介済みのクリップの左右両端の上部のドラッグで行える。

 カットイン、カットアウトを実現するには画面Bのように複数トラックを使う方法もある。
 他のソフトならこちらの方が一般的だろう。

 もちろん、この方法でもよいのだが、Movie Studioはトラックが少ない。
 上記の1トラックでのカットイン・カットアウトを使うことで、ビデオトラックが3つという制限が、さほど大きな問題には感じられないはずだ。

 なお、カットイン・カットアウトを1トラックでやる場合も2トラックでやる場合も、音声トラックは1つしか使わない。
 これはビデオトラックの音声はすべてボイストラックに集約されてしまうためだ。

 両方のクリップの音について、個別に音量や左右の定位、エフェクトの調整をしたい場合は、ビデオクリップ配置後に音声だけを別のオーディオトラック(ミュージックおよびサウンドエフェクトトラック)にドラッグすることで解決できる。

 音声込みのクリップでもドラッグで簡単にビデオと音声を分離できるのもMovie Studioの便利なところだ。
 この操作では映像と音声がずれる心配もない。

 また、「イベントグループの無視」をONにすればあえて映像と音声をずらすことも可能だ。

 VideoStudioではビデオクリップの映像と音声を分離することはできないので、使い込むうちに不満に思うこともあるが、Movie Studioならそうした不満は出ないわけである。

 この1トラックでのカットイン・アットアウトを試してみれば、先に述べた「イベントの内容のシフト」機能が使える場面は容易に想像できるはずだ。
 長回しで収録した映像を基本に、別に収録した映像を割り込ませるという手法が、この2つの機能の組み合わせにより、1トラックだけで演出できるのである。

 もう少し具体的な例を挙げよう。

 たとえば、複数カメラによるライブの収録。
 メインカメラで正面からのカットを撮り続ける(音声もこれで捉える)。サブカメラではおもしろそうなシーンを別角度から部分部分で収録していく。
 編集段階では音楽が鳴っている(最終的に音声を残す)メインカメラの長いクリップを配置する。
 インサートするサブカメラで収録したカットは音声をミュージックトラックに配置し直すことで、同期を確認できるようになる。

 必要なら定位を左右に振っておけば同期の調整がやりやすくなる(最終的にはミュージックトラックをミュート、ボイストラックのパンは中央に戻す)。
 ここで2台のカメラの同期をとるために「イベントの内容のシフト」を使うわけだ。

 タイムバーを設定してループ再生すれば、同期の微調整もさほど苦労はなくなる。

 メインカメラ、サブカメラ両方の映像を1トラックでまかなうことで、残る2つの映像トラックは字幕なりエフェクトのオーバーレイなどに自由に使える余地が残されるのである。
 この仕様はなかなかよく考えられている。

 もちろん、編集段階で同期をとる場合には2トラックを使ってもかまわない。
 オーバーレイトラック、テキストトラックに別の素材を入れる必要がなければ、最後まで2トラックで行っても問題はないわけだ。

 それでも足りないというときに、映像を1トラックにまとめられるということが便利に思えるはずだ。

 これらの操作もループ再生した状態で行える。
 同じところを繰り返し再生することで、確認時の手間が省けるというのもMovie Studioの利点だ。
 ほかのソフトではこうはいかない。

■音量、定位の変化をつける

 前回、映像と同じように音声のフェードが簡単に設定できることを紹介した。
 しかし、音声で複数トラックを利用する場合にはこれだけでは少々物足りない。

 トラックヘッダーでトラックごとの音量やパンも変更できるが、時系列に沿って変化できてこそ利用価値があるというものだ。

 クリップ単位でのイン点・アウト点のフェードではまかなえない場合もでてくるだろう。
 そこで利用するのがエンベロープ機能だ。

 音声トラックのトラックヘッダーを右クリックすると「エンベロープの挿入/削除」という項目が出てくる。

 音量に変化をつけたいなら「ボリューム」、定位に変化をつけたいなら「パン」を選べばよい。
 ここではまずボリュームを選んでみよう。

 タイムライン上に直線が表示されるので、これをドラッグすることで音量の上下ができる。
 ここまではエンベロープを使わなくともクリップ単位での音量調整でできる操作だ。

 さらにダブルクリックでポイントを追加することで、音量の時系列における変化が自由に演出できるというわけだ。

 ポイントの上下だけでなく、ポイントとポイントの間の線をドラッグできるのも使い勝手がよい。
 さらにポイント間の線の右クリックでは「高速フェード」「低速フェード」が選択できるので、直線的な変化だけにとどまらない自然な音量変化が演出できる。

 音声の左右の定位を決めるパンについては、あまり使い道がないと感じる方も多いだろう。音楽制作におけるそれとは異なり、映像収録時に記録された音声を使うというのがビデオ編集の基本であることを考えれば、確かにいまひとつ実感がわかない機能ではある。

 しかし、こういうシーンを想定してみてほしい。

 カメラは被写体を正面に捕らえているが、音が左右のどちらかに偏っている場合。
 運動会や学芸会におけるスピーカの位置と、撮影者の位置関係によってはかなり不自然に聞こえることも少なくない。
 これは定位を調整することでより自然になるはずだ。

 撮影者の移動によってカメラ位置が変わったらもう一度別のパン設定を行う。
 ここでエンベロープ設定が活用できる。

 もう1つの例としては、テキストにモーションをつけ、それに合わせて効果音をつけるような場合。
 左からテキストがフレームインする際に効果音も左から中央へ移動すると、見る側の注意がより注がれることになる。

 DVカメラの多くはステレオマイクを備えているが、マイクの位置や構造により定位感はほとんど感じられない場合がほとんどだ。
 被写体の動きを音でも感じさせるためには、定位の操作は有効だ。地味ではあるが、パンの変化も効果的に使えば、映像を見る人を飽きさせない工夫となるのだ。

 Movie Studioの定位設定はビデオ編集ソフトの中でも群を抜いてやりやすい。ぜひ活用してもらいたい機能だ。
 ここでも効果の確認や設定の試行錯誤はループ再生しながらでOKである。

■タイムラインの表示関連機能

 最後にタイムラインの表示に関する機能に触れておこう。

 タイムライン表示の拡大・縮小は右下にある虫眼鏡および+-のアイコンを使うが、横方向に関しては下のスライダーの端をドラッグすることで行える。
 リアルタイムで表示が拡大・縮小されるので、段階的な虫眼鏡、+-よりも使い勝手がよい。

 また、マウスのホイールの上下も拡大・縮小に割り当てられている。このほか、マウスのホイールではCtrlキーとの併用で垂直方向へのスクロール、Shiftキーとの併用で水平方向にスクロールできる。
 カーソルの移動はCtrl+Shiftで1ピクセル単位(拡大率で移動フレームは異なる)、Ctrl+Shift+Altで1フレーム単位となる。

 かなり細かいショートカットが用意されているという印象だが、3つのキーまで使うとなるとかなり煩雑ではある。
 とはいえ、1キーのみの利用の範囲でもホイール利用はかなり効率的な操作が可能になる。
 ホイール機能のないノートPCのユーザーにはホイール付きマウスの利用をオススメしたい。