#1 Movie Studioの基本を知る

 Screenblast Movie Studioは実売約23,000円のビデオソフトである。連載第1回となる今回はまず最初にMovie Studioの位置づけを紹介してみたい。

 Windows用のビデオ編集ソフトの定番は、1万円台の入門者向けではUlead Video Studio、ハイアマチュア~プロ向けとしてはAdobe Premiereというのが、世間一般の認識だろう。
 低価格ソフトについては他にも多くの製品があるため異論もあるだろうが、ここでは最もシェアが高く、触ったユーザーも多いだろうということでVideo Studioを一例として挙げさせて、もらうことにする。

 いずれにせよ入門者向けとその上との開きは実売ベースで5万円以上と大きく、その中間というソフトは意外にも存在しなかった。
 VideoStudioに不満を覚え、ステップアップしようとしてもPremiereでは高すぎる。機能的はPremiereほどのものは必要ないが、もっと作業効率を向上させたいと感じているユーザーは多いはずだ。そこでおすすめするのがこのMovie Studioというわけである。

 比較対象のVideo Studioの実売価格は1万円台なかばなので、価格差はさほど大きくはないが、Movie Studioを一度触ってみればその操作における快適さを中心とする優位性はそれ以上に感じるはずだ。 
 VideoStudioユーザーは、高価なPremiere導入を考える前にぜひMovie Studioに寄り道してもらいたい。また、初めてのビデオ編集ソフトとしてMovie Studioを選択するのもありだと思う。他社製入門ソフトよりもほんのちょっと高めだが、操作は簡単、レスポンスは快適、というのがMovie Studioである。

■画面構成

 それではMovie Studioの操作方法の概要を交えながら、操作における快適性を紹介していくことにしよう。まずは画面構成からだ。

 画面上部がビデオ編集ではおなじみのタイムライン。タイムラインの左側はトラックヘッダーと名づけられており、トラック名と並び、表示/非表示の切り替えボタンなどがある。
 音声トラックの場合は録音ボタン(ナレーションを追加できる)、トラックエフェクト、ミュート、音量などを調整するフェーダーが備えられている。
 入門ソフトにありがちなストーリーボード画面は存在しないが、個人的にはストーリーボードがわかりやすいとは思えないので、特に問題にはならないと感じている。

 一方の画面下半分は左側がマルチファンクションエリア、中央にオーディオミキサーをはさんで、右側にプレビューエリアが用意されている。
 マルチファンクションエリアは作業内容によって、タブを切り替えることになる。 入門ソフトの多くは編集作業の各ステップを画面全体の切り替えで行う。
 たとえば、キャプチャ、編集(クリップの配置、トリミング)、エフェクト、タイトルといったステップが用意され、順番にステップを踏んでいけばビデオ作品が完成するというわけだ。

 しかし、これらは画面切り替えが遅くイライラさせられることも少なくない。
 また、ステップによってできることが限られてしまったり、画面構成が変わって編集対象をつかみにくくなることもある。

 一方、Movie Studioは画面切り替えという手段ではなく、一部分(マルチファンクションエリア)だけを切り替えるという方法をとっている。
 もちろん、タブの切り替えは一瞬、選択したタブによって機能が制限されることもないし、タイムラインはいつでも同じ状態でそこにあるのだ。

 各エリアは境界のドラッグにより大きさの変更が可能だが、各エリアの位置関係は不変である。
 多機能なソフトはウィンドウが増える傾向にあり、それらをうまく活用することで効率よく編集作業が行えるとしている。
 しかし、Movie Studioはまったく別のアプローチをとっているわけだ。

 エフェクトの設定用のウィンドウがこれらと別に用意されるが、これも1ウィンドウで中身を瞬時に切り替えることで、ウィンドウは最小限に抑えている。
 詳細は後述するとして、次は基本的な手順だ。

■編集の流れ

 まずは、ビデオクリップの選択から。マルチファンクションエリアに用意されるエクスプローラからファイルを選び、タイムラインに配置していくことになる。

 ここで配置されたファイルは自動的にメディアプールに追加されるので、クリップ削除後の再利用も不便はない。
 ファイル選択時に挿入位置を決めかねるという場合は、ひとまず必要なファイルを右クリックで「メディアプールに追加」し、後からじっくり順番を考えればよい。

 DVカメラからの取り込みも当然サポート。本体から別プログラムを呼び出して作業を行う。残念ながらバッチキャプチャ機能は用意されていない。
 取り込んだビデオクリップはメディアプールに自動的に追加される。

 さて、素材が揃ったところでいよいよ編集作業本番である。ここでまずはびっくりしてもらいたい。

 素材となるビデオクリップや音声クリップ、静止画は、メディアプールからタイムラインにドラッグすることで配置する。
 これは画面から想像できる操作方法であろう。

 ビデオクリップ、音声クリップの一部を重ねて配置すれば、重なった部分は自動的にクロスフェードとなる(自動クロスフェード)。
 わざわざトランジション(画面切り替えの効果)を加える作業は不要なのだ。

 単なるクロスフェードだけでは芸がないと思うなら、重なった部分にマルチファンクションエリアのトランジションタブから、任意の効果をドラッグ&ドロップすればよい。

 音声のクロスフェードも同様だが、右クリックによりフェードカーブの形状が選べる。
 場面転換時の音声を自然につなぐのは意外と難しいが、これなら簡単に設定可能だ。

 クリップのトリミングもいたって簡単だ。クリップの左右の端をクリップの中心に向かってドラッグするだけである。
 1分の長さのクリップの右端を左方向にドラッグすれば、クリップが短くなり、30秒間のクリップになるわけだが、逆に右側に伸ばすとどうなるか? この場合はクリップの最後を再生したあと、最初から繰り返されるという一見ふしぎな、他のソフトでは見られない動作になっている。

 同じシーンを繰り返し再生するというのは、トリック再生的な効果をねらう意外はあまり使いみちがないように思われる。
 しかし、音声クリップの編集を考えれば話は別。詳細は後述するこにしてビデオクリップの話を続けよう。

 クリップの中央上端にポインタを持っていくと、カーソル形状が変わり、下方向にドラッグすることができる。
 この操作でクリップの透明度が簡単に変えられるという寸法だ。

 また、左右いずれかの上端では、フェードイン/フェードアウトがドラッグで簡単に設定できる。
 わざわざメニューから設定用ダイアログを開く必要はないのである。
 「ビデオ」トラックで基本となる流れを作り、「ビデオオーバーレイ」トラックで短いカットを適宜インサートしていくといった使い方をする場合、この操作の簡単さが非常に役立つ。

■目からウロコのリアルタイム性

 これらのフェード、透明度の設定といった処理はリアルタイムでプレビュー可能だ。
 昨今のビデオソフトの多くがリアルタイムプレビューを標榜しており、Movie Studioもご多分に漏れず、レンダリングの待ち時間とは無縁である。
 しかし、多くの低価格ソフトのリアルタイムプレビューはレスポンスが悪い。再生ボタンを押してから、2~3秒待ってから再生という具合であり、これでは効果の確認も面倒になる。

 対するMovie Studioのそれは本当に待たされることなく、プレビューが可能だ。設定を変更し、キーボードのスペースバーを叩けば即座に確認可能になるのだ。

 さらにすごいのはこれからだ。Movie Studioではタイム選択バーというものが用意されている。
 時間軸を目盛りで表すルーラーの任意の範囲をドラッグすることで、タイム選択が実行される。これは時間軸上の任意の区間を指定するもので、一般的にはファイル出力時の範囲を指定するのに使われる。
 Movie Studioではさらに機能が加えられており、ループボタンをONにすれば、この区間を繰り返し再生することが可能だ。

 もちろん、単に任意の区間をループ再生するだけなら意味はない。ループ再生の間も、各種編集作業が可能というのがミソである。

 トランジションやフェードをでうまい流れを作るにはタイミングなどの微調整が不可欠だ。
 しかし、設定の際、ダイアログを表示、設定変更してから、再度確認のためプレビュー、という手順は何度もやるにはとても面倒である。プレビューが遅いソフトではなおさら苦痛となるだろう。

 しかし、Movie Studioならループ再生したままどんどん設定が変更でき、確認もすぐにできる。
 また、これは何もクリップの操作だけに限定されるものではない。トランジションやビデオフィルタでも同様なのである。

 トランジションやビデオフィルタのパラメータ設定には別途ウィンドウが用意されるが、これを表示させたまま、上記のループ再生が可能だ。パラメータの変更はすぐにプレビューに反映される。豊富に用意されたトランジション、ビデオフィルタを試すのにこれ以上快適な環境はないだろう。

■タイムストレッチ

 スペースが残り少なくなってきたので、最後にもう1つMovie Studioならではの機能を紹介しておこう。
 それはタイムストレッチである。

 いわゆるスローモーション、クイックモーションを実現する機能で、これもレンダリング待ちは不要だ。
 操作はキーボードの「Ctrl」キーを押しながらクリップの境界を左右にドラッグするだけである。
 映像への効果はいわずもがなだが、音声に関してはより強力な武器となる。

 前述したようにクリップは繰り返し再生がドラッグだけで簡単に適用できる。これはMovie Studioと同じScreenblastシリーズのACIDで使われるループ用の音声ファイル(ACID Loops、別記事の『オリジナルBGMの作成』も参照)の利用を可能にする。

 ACIDと異なりテンポの異なるクリップを自動的に同期させる機能は持たないが、上記のタイムストレッチをユーザーが適用すれば、ACIDファイルを活用してある程度のBGM制作ができるということを意味する。
 また既存の音楽ファイルを伸縮させて映像の切り替えにぴったり合わせるということも可能だ。

 先に触れたタイム選択によるループ再生の操作性も含め、Movie Studioは音楽制作ソフトとの類似性や、音楽との親和性の高さが感じられる。
 それがインターフェイスの独自性として現れているが、操作環境としても洗練されているというのが本ソフトの強みであろう。

 次回はタイムラインの操作の続きと、リアルタイム処理の例を他のソフトとの比較を交えて紹介いく予定だ。