#3 再エンコードを避ける

今回の使用ソフト:TMPGEnc DVD Author 1.5
今回の目標:再エンコードを避ける

 いくつかDVDオーサリングソフトを使って思うのは、自分の目的に100%沿うものは現時点で存在せず、ある程度の妥協はどうしても必要になってくるということだ。
 こうした妥協点は、ユーザーがこだわる部分によって変わってくるだろう。

 また、1人のユーザーでも、作成するディスクの種類や録画ソースの違いによっても変わってくるはずだ。
 音楽クリップ集はゴミの排除を1フレームの欠けもなしに実現したいが、ドラマや映画ならGOP単位編集でも許せるといった具合である。

 実際に何枚かのDVDを作ったことがあるなら、この気持ちはわかっていただけると思う。

 第3回で取り上げるペガシスのTMPEGEnc DVD Atuhor(TDA)も、これまでのソフト同様不満の残る製品ではあるが、他にはない利点を多く備えている。
 これらに納得できれば、何割かのユーザーにとっては、現時点でベストな製品になり得るものである。

 まずは本連載の目標に即したTDAの主な特徴を挙げてみよう。

・映像、音声ともに無劣化
・タイトル単位でのVRインポート
・ドルビーデジタル対応
・オーサリングソフト随一の軽快な編集
・タイトル、チャプター構成の自由度
・メニューのカスタマイズ

 読者のみなさんが現在自分が持っているソフトへの不満と照らし合わせれば、この時点である程度の期待を持っていただけるかもしれない。
 利点の影に隠れた不満点ももちろんあるのだが、そこはそれぞれ解説を交え紹介していくことにしよう。

■無劣化でのオーサリング

 低価格オーサリングソフトの多くは自前のMPEG2エンコーダを内蔵することで、さまざまなフォーマットのファイルに対応することを利点としている。

 DVフォーマットAVIファイルのインポートを主眼としているのだろうが、この内蔵エンコーダが邪魔になることがおうおうにしてある。
 ソースファイルがDVDフォーマットにのっとっているのなら、再エンコードの必要はないはずだが、なぜか勝手に再エンコードしてしまう場合があるのだ。

 また、再エンコードの原因がつかみにくいのもその不満に拍車をかけていることも事実だ。

 TDAでは余計な時間を消費する再エンコードはいっさい発生しない。
 なぜなら、エンコード機能を持っていないからだ。

 TDAにはダウンロード版とパッケージ版があり、後者のみTMPGEnc DVD Source CreatorというMPEG2エンコーダが付属する。
 MPEG以外のソースが使いたいなら、パッケージ版を購入し、このソフトを別途使ってくれ、ということである(もちろん、同社のTMPGEncならより良い結果となる)。

 本連載がターゲットとするDVDレコーダとの連携に関しては、TMPGEnc DVD Source Creatorの有無が問題になることはない。

■VRインポートはチャプター設定を継承

 次のVRインポートだが、第1回で紹介したDVD MovieWriter Advanceのインポート機能では、意図しない位置でファイルが分割されてしまう点を不満点として挙げた。

 チャプター単位のほか、DVDレコーダーでの部分削除による編集点でもファイルが分割されてしまうのである。
 MovieWriterは1ファイル、1タイトルという構成が原則となっており、DVDレコーダでCMカットしたあと高速ダビングしたメディアをソースとして使う場合にはいささか不便であった。

 しかし、TDAの場合はこうした心配はない。
 ソースが1タイトルなら、インポートしたあとでも1タイトルである。

 さらに便利だと感じたのが、ソースとなるVRディスクのチャプターポイントが、インポート後のオーサリング画面でも有効になっているところである。

 オーサリングソフトの再生機能はレスポンスが悪いし、倍速や逆方向再生がない。
 番組の内容や作りたいDVDの構成によっては、レコーダーのリモコンでチャプター設定した方が楽、と感じることもしばしばだ。
 私はDVDレコーダーでチャプターを設定してから、そのカウンタを参考にしながら、オーサリングソフトで、数値で設定し直したこともあるくらいだ。

 しかし、そんな面倒はTDAではまったく不要なのである。
 ぜひ他のオーサリングソフトでも導入してほしいものである。このチャプター継承は後述する編集機能でもおおいに役立つ。

 さて、ここまでTDAのVRインポート機能を持ち上げてきたが、すべてのDVDレコーダーで有効というわけではないのが残念なところだ。
 TDAのVRインポートは、エクスプローラでフォルダ構造やファイルとして見られるディスクに限られる。

 DVD-RAMレコーダーで録画したディスクは、DVD-RAM付属のドライバが入っていれば(つまり、普通にDVD-RAMが使える状態であれば)、問題なくエクスプローラでHDDへのコピーが可能である。

 しかし、DVD-RWレコーダーで、VRモード録画したDVD-RWメディアの場合は、たとえDVD-RWドライブが使用可能な環境であってもエクスプローラからはファイルとして見えない(正常なディスクとして認識されない)。
 よって、TDAでは使えないということになってしまう。

 別途サードパーティのUDFドライバを用いれば回避できるが、この問題についてはスペースの都合で回を改めさせていただきたい。

■ドルビーデジタルへの対応

 上記VRインポートは無劣化でPCにファイル化されている。
 当然、音声はDVDレコーダーで録画されたドルビーデジタルのままである。

 TDAはドルビーデジタルのデコード機能を持たないので、TDA内でこの音声の再生はできない。
 しかし、オーサリング後、ビルド、ライティングされたDVD-Rは問題なく音声が再生される。

 DVDレコーダー側でチャプター設定や編集を施したソースなら、これで問題が出ることはないだろう。
 映像・音声ともに無劣化によるオーサリングはインポートから最終出力まで常に有効であるからこれで満足するユーザーも多いはずだ。

 ただ、編集を行うとなると、音声なしではつらい局面もあるだろう。
 そんな場合はAC-3機能拡張plug-inの導入で解決が可能だ。プラグイン同梱のダウンロード版、パッケージ版を最初から購入するのもいいし、あとでプラグインのみを追加購入することもできる。財布の中身や用途によって選択してほしい(●注:バージョン2以降ではドルビーデジタル再生に標準で対応、後述の追記参照)。

■複数ソースを1タイトルに

 TDA特有の機能のうち、ほかのオーサリングソフトでもぜひ真似してほしいと感じた機能の2つめがこれだ。

 TDAでは1トラックに複数のファイルを入れられるようになっている。
 TDAでいうトラックは、市販DVDビデオでいうタイトルに当たるもの。画面との整合性をとるため、ここではTDAの操作に関する説明ではトラックという用語を使わせてもらう。

 MPEG2ファイルはもちろん、前述のVRでインポートした複数のタイトルも、1トラックにまとめてしまえる。

 この機能の利点の1つは、DVDプレイヤーのスキップ機能の動作の違いを気にせずに済むという部分だろう。
 連載第1回で触れたように、タイトルをまたぐスキップボタンによるタイトル間のジャンプは、DVDプレイヤーによってできる機種とできない機種が存在する。
 しかし、1タイトルに複数ファイルがまとめられるなら、この動作の違いは気にならない。

 また、複数ソースを1つのタイトルに構成するという場合でも、TDAなら再エンコードは発生しない。

 1つのトラックには同じ解像度のソースしか入れられないというDVDビデオ規格に由来する制限があるが、トラックを分ければ、フルD1、ハーフD1の1枚のディスクへの混在も問題ない。
 こうした構成は、メニュー作成の自由度にもつながるものである。

■GOP単位のカット編集

 再エンコードを行わない、というTDAの特徴からいって編集機能も当然GOP単位ということになる。

 カット編集はいわゆるAB間編集で、指定範囲をカットする、または指定範囲の外側をカットするという選択肢がある。

 CMカットであれば、CMの部分の範囲を指定、カットを複数繰り返すことになる。
 フィルムロールの各コマはGOP単位で、なめらかなスクロール表示、上の大きなスクリーン部分はフレーム単位で更新され、各フレームがI、B、Pどのフレームかも表示してくれる。
 範囲指定やチャプター設定はこのうちIフレームのみとなる。

 再生・一時停止のレスポンスは良好で、順逆方向の倍速再生も備えるなど、操作性においては快適なことこのうえない。
 また、編集結果をいったん別ファイルに出力することもなく、ビルド時にVOBに結果のみを書き出すだけなので、時間も節約できているようだ。

 しかし、アンドゥができないという大きな欠点も存在する。
 すべてをクリアすることで、最初の状態にすることもできるが、カット部分が多くなるほど、失敗したときの後悔の深さも大きくなるわけである。

 また、Premiere Proのような再生関連のキーボードショートカット(スペースバーで再生、J、Lで倍速など)があればより効率的な編集が可能になるのに、と思ってしまう。
 TDAのショートカットはCTRL+SHIFT+アルファベットでたいへん使いづらいのだ。

■カスタマイズ可能なDVDメニュー

  作成できるDVDメニューの構成については、賛否両論がありそうだ。

 まずはよい点。
 表示するメニューの選択ができること。

 トップメニューのみ、トラックメニューのみ、両方という選択肢がある。
 ここでいうトップメニューは各タイトルへのリンクがあるメニューで、トラックメニューはいわゆるチャプターメニューである。
 ディスク挿入時の動作として「トップメニューを表示する」「先頭のトラックのみを再生」に加え、「全トラックを再生」があるのがとてもうれしい。
 市販のソフトでよく見るこの構成が実現できないソフトがなんと多いことか。

 さらに、トラックメニュー(チャプターメニュー)ではメニューに表示するチャプターを個別にON/OFF選択できる。
 これもなかなか気が利いている。

 モーションメニューもサムネイル、背景ともにサポートされる。
 動画サムネイルは、静止画サムネイルで指定したコマから、アニメーションが始まるのもかなりうれしい(静止画の指定はできるが、モーションメニューでは最初からしか再生しないソフトが多いのだ)。

 次に不満点。
 まずはテンプレートが極端に少ないこと。

 サムネイルなしのテキストのみメニューがあるのはうれしいのだが、この少なさはいかんともしがたい。
 また、人によってはソースのファイル名が、メニューのテキストに反映されないことを面倒に思うかもしれない。ほかのソフトならファイル名を番組名にしておくと拡張子を消すなどのちょっとした編集ですむのだが、TDAではファイル名が反映されないので、いちいち入力する必要があるのだ。

 BGMは背景に使用するムービーの音声を指定できるのだが、個別に音声ファイルを指定できないのも同じく面倒な点だろう。

 カスタマイズ機能の存在は、ある程度はテンプレートの少なさをカバーしうるものだ。
 既存のテンプレートに手を加えるということができず、1から作る羽目になるのは残念だが、好みのメニューに近づけることは十分可能だ。

 カスタマイズではまず、サムネイルの個数などを指定する。
 1画面のサムネイル数は1から24個までと幅広いのがたいへんありがたい。

 ムービーは多いが、なるべくページ数を増やしたくないという場合(たとえば音楽クリップ集)には打ってつけである。

 最大数であっても、サムネイルのキャプションが省かれないのも好感が持てた(放送日や曲名も併せて残したいものだが、MovieWriterでは1画面のサムネイル数を増やすとではこれができないのだ)。

 各サムネイルやキャプションは、自由に移動可能。メニューテーマとして保存すれば、再利用もできる。何話にもおよぶシリーズ番組のディスクを量産したい人には便利だろう。

 カスタマイズでのマイナス面は、まず、ここでもアンドゥがないこと。
 次に、すでに配置されたタイトル名、サムネイル、キャプションの個別の削除やオブジェクトの新規追加ができないことだろう。

 メニュー作成後の作業は、あとはライティングだけとなる。

 TDA本体はいったんHDDにDVDフォルダを書き出し、同梱のライティングエンジンを起動するかどうかを選択することになる。
 当然、別のライティングソフトの利用も可能だ。

 ここで「シミュレーションによる動作確認は?」という声が聞こえてきそうだが、TDAにはそれはない。
 書き出し後再生ソフトを使うしかないのである。これがメニュー作成の最後の不満点だ。

■スピード重視なら有力な選択肢

 TDAには他にはないメリットが盛りだくさんのソフトである。
 ただ、それに付随する不満点も多い。

 だが、万人向けとはいえないもののDVDレコーダーのユーザーの中には、これこそベストだと思える人が多いように感じる。

 実際にCMカットを施してドラマのDVDを作成してみて、その編集の快適さに感動したし、チャプター継承も編集時のポイント探しに活躍してくれた。

 出来上がったDVDは、カット編集位置で映像が一瞬静止してしまったが、もともと話が切り替わる点なのでさほど気にならなかった(これはソースやプレイヤーによって変わるかもしれない)。

 幸い、機能制限のない体験版(1カ月の期限あり)が用意されているので、ぜひ試用してこの完成までのスピードを味わっていただきたい。
 たとえメインのソフトにならずとも、2つめのソフトとして利用できる場面は多いはずだ。