#2 ゴミフレームをどうするか

 今回のテーマはゴミの排除だ。

 利用するソフトはDVD-MovieAlbum SEとMpegCraftの2つ。

 いずれもオーサリングソフトではないので、別途オーサリングソフトが必要になるが、ゴミの排除には現時点でベストとはいえないものの、オーサリングの前処理にはかなり有用な組み合わせである。

 ソフトの対応から、今回もDVD-RAMレコーダー用の記事になる。

■ゴミ問題

 たとえば、ミュージックステーションを毎回録画、気に入った曲だけをDVDビデオに残そうと思ったとしよう。

 DVDの編集機能の制限で、毎回曲が終わるたびに一瞬タモリの顔が出てきてしまうDVDはかっこ悪い。

 かといって曲の最後の部分が欠けるのも避けたい。

 いくらメニューデザインに凝っても、ゴミが出てしまっては興醒めである。
 これをどうやって解決するかが問題だ。

 では、余計なフレームが残った場合にどう対処すればよいだろうか。

 余計なフレーム、いわゆるゴミの問題については前回にもちょっと触れているが、簡単におさらいしておこう。

 一部のDVDレコーダーはフレーム単位の編集が可能だ。
 しかし、それはVRモードでの記録に限られ、それをそのままDVD-Rに焼くとゴミが復活してしまうという問題がある。
 VRモードでは再生時にフレーム単位で再生する、しないと制御できるので、ゴミを見ることはない(しかし再生が一瞬止まる)が、DVD-Rに焼いた時点でゴミが復活するのである。

 これはDVDビデオの規格からくる制限である。
 それを回避するには、「レート変換ダビング」などという名称で用意される再エンコードをするしかない。

 しかし、再エンコードは映像と同じ時間が必要になる。
 本連載ではPCにデータを持ってくるという作業を行なう都合上、DVDレコーダー単体での作業よりも時間がかかってしまう。
 その上さらに費やす時間が増すとなると「手間や時間をかけない」という目的からはちょっと外れてきてしまう。

 また、DVDレコーダーによっては、再エンコードを利用してもゴミを排除できないものがある。これをPCを使うことでなんとかできればと思っている人も多いだろう。

 ■MPEG専用カット編集ソフト

 MPEG2は編集に向かないと言われる。
 それはフレーム間圧縮に起因する。

 かなりはしょっていうと、前後のフレームを参照し差分のみを記録するフレームを設けることで画質を下げずにデータレートを下げるのがMPEGである(図1)。
 15フレーム程度のGOP単位で映像は完結しているが、それをさらに細かく分割するには、差分しか持たないフレームを補完する必要が出てくる。
 これがMPEGのフレーム単位での編集を難しくしているのだ。

 多くのビデオ編集ソフトでは全体を再エンコードすることで対処しているのだが、当然エンコードには時間がかかってしまう。GOPが分割された部分だけ再エンコードし、それ以外の部分はそのままコピーしてしまえば早いのに、と技術に明るくない私などは思ってしまうのだが、そうしたソフトは長らく存在しなかった。

 しかし、そんな問題を2003年に発売されたカノープスのMpegCraftが解決してくれたのだ。

 MpegCraftはMPEGファイルのGOP単位、フレーム単位でのカット編集を行なうソフトである。

 一般的なビデオ編集ソフトのようなエフェクト機能はないが、TV番組を残すという目的ならそんなものははなから必要ない。
 ゴミがとれる、それだけで十分価値があるのだ。

 もちろん、1本の番組からCMだけをきれいにカットするという作業も行なえる。

 しかし、残念なことに対応する音声フォーマットはMPEGオーディオに限られる(●注:以降のバージョンでは可能、追記参照)。
 DVDレコーダーで記録できるドルビーデジタル、リニアPCMで音声を収録したMPEGファイルはインポートすることができないのである。

 よって、前回紹介したDVD MovieWriter Advanceのように音声の変換なしでDVDメディアからの取り込みを行なうソフトで作ったファイルをそのまま利用することができないのだ。

 MpegCraftで利用するためには、DVDメディアからの取り込み後に音声をMPEGオーディオに変換する必要がある。
 しかし、取り込み後に変換、という作業もやはり面倒だ。
 そこで登場するのが、松下電器産業のDVD-MovieAlbum SEだ。

 DVD-MovieAlbum SEはDVD-RAM専用の再生・編集ソフトで、DVD-RAMからの映像取り込み時に自動で音声フォーマットの変換をしてくれる。
 これでMpegCraftへのインポートも問題なくなるわけだ。

 それではさっそく手順紹介と行きたいところだが、その前に音声フォーマットについてちょっと理解を深めておこう。

■音声フォーマットに注意

 日本のDVDビデオ規格で正式にサポートされている音声の形式はPCMとドルビーデジタルのみである。

 PCMは非圧縮の音声データで、Windowsで一般的に使われるWAVファイルと同様のものである(正確にはWAVは圧縮コーデックもサポートしているが)。

 一方のドルビーデジタルはドルビーラボラトリーズ開発による圧縮音声のフォーマットで、AC3とも呼ばれるものだ。

 AC3は開発途中でのコードネームで、現在の正式名称はドルビーデジタルなのだが、DVDオーサリングソフトではいまだにAC3という名称が普通に使われていたりするのでややこしい。

 それはともかく、ドルビーデジタルは圧縮音声なので、同等の音質でPCMよりもビットレートが下げられる、結果として映像のビットレートを上げられるというメリットがある。

 同じ画質であっても、音声をPCMで記録するよりドルビーデジタルで記録したほうが、1枚のDVDに収録できる時間が長くなるということである。

 厳密にいえばPCMより圧縮している分ドルビーデジタルのほうが音質が劣るわけだが、ちょっと聴いて音質がさほど変わらなければ圧縮音声の方が帯域が狭くなりその分を映像にまわせるので、そのトレードオフを考えればDVD作成においては有利ということは間違いない。

 これはDVDレコーダーの録画モードを考えれば容易に察しがつくであろう。 では、同じ圧縮音声フォーマットであるMPEGオーディオはどうだろう。

 ここでは便宜上MPEGオーディオと記述しているが、正式名称はMPEG-1 Audio Layer-2である。
 MPEGエンコーダの多くは音声をMPEGオーディオで記録する。TVキャプチャーカードのユーザーにはおなじみのフォーマットである。

 しかし、日本のDVD規格ではオプション扱いであり、再生機側のサポートも必須ではない。

 とはいうものの、現在市場にあるDVDプレイヤーでMPEGオーディオの再生ができないものを探すほうが困難なくらいである。
 初期のプレステ2がMPEGオーディオの再生が不可というのは有名だが、これもDVD再生ソフトのアップデートで対応が可能になる問題である。

 ただ、DVDプレイヤーとデジタル接続されるAVアンプの利用には注意が必要だ。
 MPEGオーディオのビットストリームを入力、再生できるものは多くない。
 再生にはDVDプレイヤー側の設定でデジタル出力をビットストリームではなくリニアPCMにする必要が出てくる。
 これを手間と考えるかどうかは人によって変わってくるだろう。
 もちろん、AVアンプを使っていない人には関係ない話である。
 アナログで出力する分には問題ない。

■DVD-MovieAlbum SEでDVDからMPEGファイル取り込み

 ソフトの使い方の解説の前に、DVD-MovieAlbum SEについて簡単に説明しておこう。

 DVD-MovieAlbum SEは基本的にDVD-RAM対応ドライブへのバンドルソフトとしてのみ入手可能だ。
 同社サイトでは通販も行なっているが、あくまでも同社ドライブユーザー向けの販売である。

 開発元の松下電器産業のドライブだけでなく、バッファロー、ロジテックなどのドライブのほか、一部のキャプチャハードウェアへのバンドルされている。

 また、NECのVALUESTARのようにDVDマルチドライブ搭載機にプリインストールされるケースもある。
 入手方法が特殊なため、誰にでもすすめられるというものではないのが残念だが、DVD-RAMレコーダーのユーザーなら持っておいたほうがよいと言われるくらい支持を集めているのも確か。
 これからドライブを購入するのなら、バンドルソフトもチェックしておきたい。

 DVD-MovieAlbum SEが支持を集める理由はいくつかある。

 VRモードで記録されたDVDメディアの編集ができるソフトとしては最も歴史が古いだけでなく、DVD-RAMの開発元である松下製ということもあり信頼性についても文句はない。

 タイトルの分割や削除、チャプター追加、プレイリスト作成といった編集をサポート、さらにPCへのデータコピー/バックアップといった機能を持っている。
 また、タイトル名の入力がPCのキーボードできるので、レコーダー本体での入力を面倒に感じているユーザーにも最適である。

 高速なシャトルサーチ(最大128倍の倍速再生)があるので、シーンを探すのが楽なのも特筆すべき点だろう。
 ビデオ編集関連ソフトではここまで快適なものはいまだに見たことがない。

 さて、オーサリングの前処理として使う機能のメインは「切り出し」である。

 操作は簡単で、補助機能メニューから「ファイルへの画像切り出し」-「プログラムの切り出し」を選ぶか、プログラムの右クリックで「切り出し」を選べばよい。
 個別に取り込むほか、「全プログラムの切り出し」も可能なので、複数ファイルの取り込みも手間はかからない。

 なお、ここでのプログラムという用語だが、松下製DVDレコーダーではDVDビデオでいうタイトルをプログラムと呼んでおり、本ソフトもそれに従っている。
 同様にチャプターはマーカーという名称になっている。

 「切り出し」のダイアログでは「切り出しモード」として「同じ解像度で切り出し」「簡易(高速)切り出し」の2つがあるが、ここでは後者を選ぼう。
 レコーダー側での部分削除や、プレイリストからの高速コピーを行なった際のつなぎ目、DVD-MovieAlbum SEで分割、結合を行なった部分でファイル分割されてしまうが、後でMpegCraftで結合できるので問題はない。

 「同じ解像度で切り出し」の場合は編集点でファイル分割されることはないが、GOP単位での編集になるのでゴミが出てしまうのは簡易(高速)切り出しと同じ。
 また、異なる解像度の複数タイトルをいっぺんに切り出す場合にも不都合が出てしまう(解像度変更のために再エンコードがなされるため)。

 この設定は、松下製DVDレコーダーに用意されたハイブリッドVBR設定により、映像の途中で解像度が変わってしまう部分に対処するためのものと考えるべきだろう。
 録画前にレコーダー側で、ハイブリッドVBRの設定をアドバンスではなくノーマルに変更しておけば回避できる問題である。
 ちなみに、これは松下製レコーダー&PCユーザーにとっては常識のようだ。

 同様に東芝製レコーダーユーザーならDVD-R互換ONで録画するのも常識。

 MpegCraftを使うという前提なら、速度面で有利な「簡易(高速)切り出し」でよい。

 ここでのPCへのコピーは映像データは無劣化だが、音声は前述のとおりMPEGオーディオ(CBR、224kbps)に変換される。
 ソースにもよるかもしれないが、アナログ地上波の音楽番組のソースなら個人的には音質の劣化はさほど気にする必要がないレベルだと感じた。
 耳に自信がある人なら評価は変わるかもしれないが、利便性とのバランスを考えればOKを出す人も多いと思われる。

■MpegCraftでゴミなしカット編集

 上記の手順でPCに取り込んだMPEGファイルは、MpegCraftにインポートして編集作業開始となる。

 MpegCraftのGUIは少々独特で、とくに一列に配置されたボタンにとまどう人が多いようだ。

 操作自体はシンプルなので、さらなる効率化のためにボタン配置だけでも変更してほしいところだが、そこは我慢して使うことにしよう。

 MPEGファイルはエクスプローラからのドラッグ&ドロップでインポートができる。
 DVD-MovieAlbum SEでの取り込み時に分割されたファイルもそのままドラッグすればよい。

 MpegCraftでは解像度やビットレートが同じなら複数ファイルの連結も行なえるので、1つの番組が分割された場合なら当然問題ない。

 カット編集はインポートされたファイル個々に対して行い、最終出力段階で自動的に連結される(分割して出力も可)。

 よって、1つずつ内容を確認しながらカットしていけばよい。

 編集の基本はマークを打っていくこと。
 多くの編集ソフトはイン点・アウト点を指定していくという手法だが、MpegCraftの場合はその区別はなくとりあえずマークを打つだけ。

 必要な部分と不要な部分は交互に存在するので、最初の部分(頭から1つめのマークの位置まで)を使うか使わないかを設定するだけでよい。

 番組の本編だけを残す、CMだけを残すといった作業もボタン一発で反転できるというわけだ。

 フレームのサーチには長めのスライダーのほか、フレーム単位、GOP単位、指定時間分のスキップボタンが用意される。
 サムネイルを9フレーム分表示するピクチャリストも有用だ。
 こちらも指定時間単位での間隔で表示される。
 1分単位にしておけばCM部分を探すのも手間はない。

 最新バージョンでは更新本体画面での再生ができないのが残念だが、これらの機能によりカバーできていると感じる。

 マークをつけ終えたらあとは出力だけだ。
 ここでは必要な箇所のみ再エンコード」を選ぶのがポイント。

 GOPに満たないフレームの部分やつなぎ目を再エンコードにより新たに構築することで、映像の破綻を防いでくれる。
 数フレームの処理なので、ファイル出力にかかる時間はファイルコピーにかかる時間+ちょっとで済むのもありがたい。

 異なるビットレートで取り込んだ番組の連結には再エンコード部分も増えるので時間がかかるが、そうした場合はオーサリング時に別タイトルとして収録するのが一般的なことを考えれば、現在のままで十分有効に使えるはずだ。

 MpegCraftで出力したファイルは、DVDオーサリングソフトにインポートして、前回同様に作業すればよい。

 出力時に音声フォーマットをMPEGオーディオのままにしておけば、これ以上の音質劣化は防げる。

 前回紹介のDVD MovieWriter Advanceのほか、Adobe DVD Encoreでも問題なくDVDビデオが作成できた。
 手間は多少増えたが、ゴミの排除が再エンコードなしで実現できることを考えれば時間の節約にはなっている。

 これでメニュー以外の部分の見栄えもアップしたはずだ。

追記

 MpegCraftは記事掲載以降、DVDオーサリング機能を備えたパッケージも発売された。また、バージョン3以降でドルビーデジタルに対応している。