#3キー変更でコード進行・流れを作る

 ループソフトの大きな特徴は、サンプル(楽器の演奏を録音したオーディオファイル)のテンポやキーを自動的に合わせてくれるところだ。したがって、サンプルを適当に放り込んでいくだけで、それらをまとめて曲にしてくれる。音楽の知識や経験が不要なので、とくに初心者にとってこれはありがたい。しかし、少し慣れてくると、それだけでは物足りなく感じるだろう。BGMに使うならとくに凝った曲を作る必要はないが、気の利いたBGMがあれば映像も引き立つというもの。やはりそれなりに面白い曲に仕上げておきたいものだ。そのために必要なのが、アレンジだ。今回は、前回のように簡単な手順で作ったシンプルなパターンを、さらに使える曲にするための簡単なアレンジを行ってみる。

キーの変更で流れや抑揚を作る

 曲を面白くするためのアレンジには、ブレイクを作ったり、テンポを変えたりといったさまざまな行程がある。しかしなんといってもループソフトでもっとも簡単に、そして自由にできるのがキーの変更だ。アレンジの第一歩として覚えるには最適といっていいだろう。

 数少ないサンプルを使った単純なパターンでも、カッコいい伴奏になっていれば、それだけで音楽として十分に成立するし、BGMとしても使える。これは前回試した通りだ。しかしこれにもう一味加えたい、そんなときに有効なのがキーの変更だ。全体が1つのキー、同じような音程、同じような構成の和音で演奏されていると、当然ながら単調に聞こえてしまう。BGMが単調だと、見ている映像も退屈に感じてしまう。とくに、ある程度長さのある映像につけるBGMの場合は要注意だ。

 途中でキーを変えると、抑揚がつく。いわば起承転結の流れができるので、まとまった感じになる。また、単調にならないので、新たなサンプルを追加したり、別のパターンを作ったりしなくても、長いBGMとして使えるようになる。キーの変更をしない、つまり1つのキーだけを使った場合は、どんなにカッコいいパターンが作れたとしても、せいぜい8小節か16小節で飽きてしまう。テンポにもよるが(テンポ120なら8小節で16秒)、多くの場合、これでは1分ももたずに飽きてしまうかもしれない。しかし、8小節程度の短いパターンでも、キー変更で変化をつけ、流れを持たせておけば、それをコピー/ペーストして繰り返して使えるようになる。同じサンプルを使った1つのパターンの演奏でも、1つのキーで延々繰り返すよりはるかに音楽らしくなるものだ。

 さて、ここでいうキーの変更とは、コード進行のことだと思えばよい。コードとは、簡単に言えば伴奏全体の和音のこと。弾き語り用の楽譜や歌本に書いてあるGとかEとかいったアレである。このコードの配列がコード進行だ。ポピュラーミュージックのほとんどは、同じようなパターンの伴奏の繰り返しだが、うまくコード進行をつけてやることによって、その曲らしい特徴が出てきているのだ。コードによってメロディも引き立つし、躍動感や悲しさといった感情も表現できる。コード進行は、曲のイメージを決定付ける要素でもあるのだ。

ループソフトでのキー変更の手順

 ループソフトでキーを変更し、コード進行を作る方法はいたって簡単だ。どのソフトでも、キーのマーカーをつけることで、その位置で再生されるサンプルの音程を変更するようになっている。たとえば曲全体のキーがEに指定されていても、キーをAに指定するマーカーがあると、ベースもギターもピアノも、すべての音程のあるパートのサンプルが、その場所ではAのキーで再生されるようになる。歌詞カードにコードを書き込むようなつもりで、マーカーにキーを書き込んでいくだけでいいのだ。

 Music Creator PRO24では、トラックウィンドウで、サンプルのクリップが表示されているエリアの上にあるタイムルーラー(小節番号が表示されている部分)にマーカーをつけていく。タイムルーラーを右クリックし、表示されるダイアログボックスで、リストから変更するキーを選択すればよい。操作はこれだけだ。マーカーの位置は、小節の先頭に合わせるのが基本だが、3拍目、4拍目などといった小節の途中につけてもかまわない。マーカー自体をドラッグすれば簡単にキーを変更する位置を変更できる。慣れてきたら小節の先頭以外の場所でキーを変更してみて、もっとも効果的な場所を探してみるのもよいだろう。

どのようにキーを変更するか

 では実際にどんなふうにキーを変更すれば、まとまりのあるコード進行になるのだろうか。音楽のことなので、これが絶対という決まりはない。自分が気に入った曲になればなんでもいい。とはいえ、やはりセオリーというものもある。コード進行もその例外ではない。ここではそれをいくつか紹介しておこう。

 もっとも簡単なのは、2つのキーを使う方法だ。8小節のパターンならまず前半と後半の2つに分け、後半のキーを上げてやるだけという単純なものだ。したがって5小節目に、キーの変更を行なうマーカーをつけることになる。キーをどれだけ上げるかは、パターンによっても異なるが、どんなパターンにでも合うのは、後半のキーを1つ(長2度)、あるいは3つ(完全4度)上げる方法だ。たとえば全体に指定されているキーがCなら、1つ上げる場合はD、3つ上げるならFを指定すればよい。これは短くてシンプルな伴奏のパターンに向いている方法だ。付属DVDには、キー変更をしないパターン(bgm02c.wav)、CからDに上げたパターン(bgm02c_d.wav)、CからFに上げたパターン(bgm02c_f.wav)の3つを、それぞれ繰り返して再生したデータが収録されているので、聞き比べてみてほしい。

 できあがったパターンをアレンジする際だけでなく、基本パターンを作るサンプルを選ぶときにもこの方法は有効だ。ドラムとベース、リズムギターなど基本的なパートだけが出来上がったら、とりあえずこの方法で簡単にキーを変更する。そしてそれを再生しながら残りのサンプルをプレビューして選ぶといいだろう。曲の完成形が想像できるようになり、後から乗せるフレーズもぐっと選びやすくなる。

「コード進行」を作る

 以上は単純にキーを変更するだけの方法なので、同じパターンを延々繰り返すような場合に有効だが、使うキーの数をもうちょっと増やせばいわゆる「コード進行」という形になり、全体がさらに曲としてまとまった感じに聞こえるようになる。コード進行を作るというと、難しく思えるかもしれないが、実際には非常に簡単で、使うコード(キー)は3つで十分だ。よく使われるコード進行の代表として、3つのコードを使う「3コード」と呼ばれる進行があるので、これをそのまま使えばよい。ポピュラーミュージックで基本とされるコード進行なので、これだけ知っていればかなり使いまわしがきくし、応用もすぐにできるようになる。同じ「3コード」でも、ジャンルによって使うコードが微妙に違うことがあるが、ここではもっとも基本的とされるものを紹介しておこう。

 もっとも簡単なのは4小節を1つのパターンとする進行だ。これは元のキーを2小節目で3つ(完全4度)、3小節目で4つ(完全5度)上げ、4小節目で元のキーに戻るという進行だ。たとえばもとのキーがCなら、C-F-G-Cと、1小節ごとにキーが変わる進行になる。1つ1つのコードがそれぞれ起承転結を受け持っていて、最後のCで落ち着いた感じになり、曲が終わった印象になるパターンだ。コード理論の書籍などを読むと、3つ目のGはG7というコードになっていることが多いが、これは和音の構成音が若干違うだけで、基本はGと同じなので気にしなくても大丈夫だ。ループソフトのキー変更では単純にGを指定すればよい。付属DVDに収録のデータ(bgm02_3chord1.wav)は、先ほどの8小節のパターンの先頭に、このコード進行にしたがってキー変更をしたものを4小節分イントロにつけたパターンだ。このようにイントロに使ったり、曲中でちょっとした変化をつけたい場合に最適なのがこのパターンだ。ここでは1小節に1つのコードを割り当てたが、2小節ずつ変更してもかまわない。シンプルだがかなり使えるパターンなので、ぜひ覚えておいてほしい。

 3コードを基本とする、さらに長いパターンもある。一般にブルース進行と呼ばれるものがそれだ。12小節でひとまとまりとなっているので、長いBGMを作るときに利用できるパターンだ。元のキーをCとして1小節にコードを1つずつ当てはめると、C-C-C-C-F-F-C-C-G-F-C-Gという進行になる。このパターンは、延々繰り返して使っても飽きないとされるパターンなので、フェードアウトさせるのに向いているが、曲を終わらせる場合には、最後の小節のキーをCに変えればよい。C-C-C-C-F-F-C-C-G-F-C-Cとすると、最後で曲が終止するイメージになる。エンディングにちょうどよいサンプルが見つかった場合はこの進行にすればいい。DVD収録のbgm02_blues1.wavがこの進行を使い、最後の12小節目はGになるパターンとCになるパターンが交互に出てくるようにしたものだ。このままBGMとして使ってもいいし、繰り返しのたびに、サックスやギターのソロなど違うフレーズを入れると、映像に応じた盛り上げ方を演出することもできる。

キーを変更させないパートもあってよい

 このようにマーカーをつける方法でキーを変更すると、すべてのパートのキーが同じように変更される。演奏するキーを一致させるのはもちろん基本中の基本なので、初めはこの方法でコード進行を作っていくとよい。しかし各パートのコードは必ずしも一致させる必要はない。これは実際の音楽ではよくあることで、たとえば、全体のキーが変わっても、ギターだけは元のキーのまま変わらないという場合もあるし、複雑な構成音の和音を表現するために、ギターとピアノで違うコードを担当する場合もある。ループソフトではもちろんこういった表現も可能だ。

 サンプルのキーをマーカーの指定どおりに変更するかどうかは、クリップごとに決められる。クリップを右クリックしてプロパティを見てみると、「プロジェクトのキーにあわせる」という項目がある。このチェックを外せば、そのクリップはマーカーでキーを指定しても、音程が変更されず、もとのキーで再生されるようになる。たとえば先ほどの例のように、全体として3コード進行のキー変更を設定し、ギターだけキー変更させない場合は、ギターのクリップでこの設定を行なっておけばよい。小節単位でクリップを分割すれば、1つの小節だけキー変更をさせないようにすることも可能だ。

 この場合、気をつけておきたいのは、キーを変更すると、サンプルのフレーズによっては調子っぱずれに聞こえることがあるということだ。たとえばベースもギターもメジャーのコードを演奏するサンプルを使えば、音程が変わっても問題ないように思うかもしれないが、片方だけキーを変更すると、全体のコードに合わない音が出てくることがある。これは「スケール」といって、コードによって使える音と使えない音が決まっているからだ。コードやスケールについて詳しく述べると、それだけで1冊本が書けるほどになってしまうのでここでは省略するが、とりあえずそういうことがあると覚えておけばいい。とにかくキーの変更を行なったら、最初にサンプルを選んだときと同じように、再生して聞き直し、変なところがないかどうかをよく確認することが重要だ。

 ここまでできたら曲はほぼ完成だ。さらに完璧に仕上げるなら、ミキサーで各パートの音量バランスの調整や、エフェクト処理といった最終調整、いわゆるミックスダウンをすればよい。ミックスダウンについては次号以降で説明することにしよう。