#2ループソフトでの作曲の基本

 サンプル(楽器の演奏をフレーズやパターンの単位で録音したオーディオファイル)をループ再生させ、それを組み合わせることを基本として曲作りを行なうのがループソフト。音楽の知識や楽器演奏の経験がなくても簡単に音楽を作ることができるのが特徴だ。とはいえ、自分のイメージにぴったり合った曲を作るには、そのための使い方のコツを知っておく必要がある。そこで今回から、ループソフトを使った曲作りの具体的な方法を紹介していく。前回に引き続き、エディロールの今日からはじめるパソコンミュージックのメインソフトであるMusicCreator Pro24を例に、今回はループソフトでの作曲の第一歩、素材の選び方について考えてみよう。

サンプルが命

 まず最初のステップは、素材となるサンプルを選ぶことだ。ただ気に入ったサンプルを選べばよいだけの簡単な作業にも思えるかもしれないが、これはループソフトでの曲作りにおいてもっとも重要な行程の1つだ。なぜなら、ループソフトでは文字通りサンプルをループ再生、つまり繰り返し再生することで曲を構成していくため、選んだサンプルが曲のイメージを決めてしまうからだ。もちろん適当にサンプルを選んで放り込んでいっても、ある程度まとまりのある曲に仕上げてくれるのがループソフトのよいところなのだが、それでは必ずしも気に入った曲になるとは限らない。ループ再生させたときに、自分の持っているイメージに合うフレーズになるかどうか、映像と合わせたときに違和感がないものになるかどうか、とくに最初のサンプルは慎重に選ぶ必要がある。

 サンプルの選び方はジャンルによって異なる場合もあるが、通常はドラムなどリズムパートの楽器から選んでいくことをおすすめする。リズムパートだけでもできていれば曲のテンポが明瞭になり、テンポを決めやすくなるからだ。速いテンポの曲はうきうきしたイメージになり、ゆったりしたテンポは落ち着いた雰囲気を醸し出すというのが音楽のセオリーだ。これを念頭に置いてテンポを決めるとよい。そのためには最初にリズムパート、とくにドラムのサンプルを選ぶのがよいだろう。ドラムを使わない曲の場合は、リズムがはっきり出ているパートか、メロディなどのもっとも目立つパートを作っていくとイメージが作りやすい。

 ほとんどのループソフトには、サンプルのファイルを一覧表示して試聴する機能があり、ここから気に入ったサンプルを選ぶことができる。MusicCreator Pro24の場合は、ループエクスプローラというウィンドウがそれだ。ここでサンプルのファイル名をクリックして選択し、プレビューボタンを押すとそのサンプルの中身を試聴することができる。停止させるまで延々とループ再生されるので、実際に曲中で使うときのイメージをここでつかめるはずだ。
 サンプルを選ぶポイントは、もちろん聞いて気に入ったもの、ということになるが、市販のサンプルCDなどはサンプルの数が膨大なので、すべて試聴するだけでも大変な作業になってしまう。そこで、目的のサンプルを絞り込むヒントをいくつか紹介しよう。

 まず1つめのポイントはサンプルのファイル名だ。ここには中身を大まかに知る重要な手がかりがあることが多く、音楽用語を知っていれば内容を簡単に判別することができる。たとえばドラムの場合は、「JAZZ」とか「Metal」など、ジャンルを示すキーワードがファイル名に含まれていることが多いし、「Bounce」や「Shuffle」だと3連符を基本としたいわゆる「ハネた」リズムになる。またギターやピアノなど音程のある楽器については、基準となる音程がE、Cといったコードネームで示されていることもある。この場合注意したいのは、メジャーとマイナーの区別だ。EやCという表記は明るい響きのメジャースケールを示しており、Em、Cmといった小文字のmのついたものは暗い響きのマイナースケールのフレーズになることを知っておくとよいだろう。基本的にはメジャーとマイナーの両方を同時に使わないように注意し、たとえば全体を明るくまとめるにはメジャーのサンプルを中心に使う、といった選び方をするとよい。

 さらに、ループエクスプローラでは、ウィンドウ下部に選んだサンプルのプロパティが表示される。たとえば「PCM 44100Hz、16ビット、モノラル、80801サンプル、(1.83秒)、131BPM、[D]」といった表示になるが、とくに注目すべきはテンポと秒数、そしてキーだ。テンポは1分当たりの拍数で示されているから、120BPMなら1小節は2秒になる(1小節は4拍)。つまり、ここから大まかな小節数が割り出せるというわけだ。また、キーは基準となる音程がコードネームで表示されるもので、ファイル名ではキーがわからないときでも、ここを見ればもとの音程やメジャー、マイナーの区別がわかることが多い。
 単にサンプルの内容を知るということだけではなく、音質のためにもこれらの情報は重要だ。というのは、サンプルの長さや音程を大幅に変化させると、音質が劣化してしまうからだ。これらの情報をもとにして、あまりかけ離れたテンポやキーのサンプルを選ばないようにするとよいだろう。たとえばテンポの場合は、変更する割合がもとのテンポの2割程度の範囲内に収まるようにしておけば、音質の劣化はそれほど気にならないだろう。

曲に取り込むにはドラッグ&ドロップ

 気に入ったドラムのサンプルが見つかったら、はじめにある程度の長さのパターンを作っておこう。これは通常のシーケンスソフトやオーディオソフトでは、データを何回もコピー、ペーストするなど面倒な作業が必要だが、ループソフトでは非常に簡単だ。MusicCreator Pro24では、ループエクスプローラから上部のトラックウィンドウにサンプルをドラッグすると、サンプルを示すクリップが作成される。これはサンプル1回分、つまり普通はこれで1小節分になる。次にクリップの右端をドラッグして、クリップの長さを伸ばしてやれば、好きなだけ再生する回数を増やすことができる。これだけで長いパターンを作ることができるわけだ。一般的にまとまりを感じられるのは8小節、16小節といった単位なので、まずは8小節分にしておこう。

 ドラムができたら、次はベース、そしてギターやピアノといったメロディ楽器を選んでいけばよい。ベースは、ドラムとの関係によって曲の基本となるノリが決まってくる重要なパートだ。リズムを重視するなら、ドラムの次はベースを決めておこう。ただしベースのフレーズやパターンによって、この後で重ねられるほかの楽器のフレーズが限られてしまうことがあるので、使いたいギターやピアノのパターンが決まっているなら、そちらを先に選んでもいいだろう。いずれにせよ、2つめの楽器で、曲全体の大まかなイメージが決まってくる。

 ベースにしろギターにしろ、2つめ以降の楽器を重ねるときに注意するのは、これまでにできているパートとの相性のよいサンプルを選ぶことだ。それには、ループエクスプローラにあるオートプレビューを利用するのが便利だ。これはサンプルのファイル名をクリックするだけでプレビュー再生される機能だ。いちいちプレビューボタンをクリックしなくてもよいので、出来上がっているパートを再生しながら、サンプルを素早く切り替えて試聴することができる。

 単体で聞いてもほとんどわからないような微妙な違いを持つサンプルもあるが、こうして聞き比べてみればどっちがぴったりなのかすぐにわかる。また、思いもよらなかった意外なサンプルがうまくなじむこともあるから、できる限り多くのサンプルを試聴してみることをおすすめする。気に入ったサンプルが見つかったら、先ほどと同様に上部トラックウィンドウにドラッグしてクリップを作り、長さを合わせてやればOKだ。

 ループソフトでのサンプルの選び方、そしてパターンの作り方の基本はこれだけだ。あとはこれらの作業の繰り返しで、気に入ったサンプルを見つけて重ねていけばよい。BGMを作るのがまったく初めてという場合は、まず最小限の構成として、ドラム、ベースのほかにピアノやギターを加えた3パートの構成で作ってみることをおすすめする。これで曲の骨格は出来上がるし、これだけでも十分に音楽として成立する。これを基本にさらに多くのパートを追加してゴージャスに仕上げてもよいし、もちろん面白いサンプルを厳選して、3パートだけで聞ける曲を作ってもよい。とにかく、ループソフトでの曲作りでは、はじめのサンプル選びが肝心なのだ。